私たちは、未来から今を選択できるか

主題を「未来から思考する」とし、NYで活躍されているFuturist(フューチョリスト)とオンラインで繋がりMeet Upを実施しました。

ビジネスシーンでバックキャスティング※1の手法を使って、不確実な時代に光明を見出そうとする動きが活発になっています。創造性を発揮し、思考をジャンプさせ、思いもよらないVisionを思い描く。その地点から時間を逆流しながら現在に向かって、ストーリーを考えていく。そんなアプローチを踏みます。他にもSF思考※2などもバックキャスティングを用いた手法として有名です。

※1 最初に目標とする未来像を描き、次にその未来像を実現するための道筋を未来から現在へさかのぼって記述するシナリオ作成手法
※2 未来の言葉やキャラクターからありたい社会を考えて、バックキャストでビジネスや技術などを紐解いていく手法。三菱総合研究所と筑波大学の共同研究から生まれた。

CIA Inc.ではクライアントワークで、ありたい姿は何か?を問う機会が多くあります。現状の状況分析や事業戦略を基に発想することが多く、「未来から思考する」考え方に触れ、頭のギアを変える時間となりました。

未来学とは?未来学者とは?
未来学(futurology)は未来を意味するラテン語(futurum)と学を意味するギリシャ語の語尾語(-logia)を組み合わせた造語です。1943年にドイツ人のオシップ・K・フレッチハイム(Ossip K.Flechtheim)が使い始めたと言われています。未来学の研究分野としては、さらに時代を遡り、1901年にH・G・ウェルズ(Herbert George Wells)※4が当時のイングランドで社会に影響力を持っていた社会誌に論文を寄稿したことが始まりとなります。その後、フレッチハイムと共に新たな学問分野として「未来主義(futurism)」を提唱しています。

※4 オシップ・K・フレッチハイムは、ドイツの大学講師および作家、政治学者。ドイツにおける未来学の創始者の1人
※5 H・G・ウェルズは、SF小説家。SFの父とも呼ばれており、 代表作に『タイムマシン』『モロー博士の島』『透明人間』『宇宙戦争』などがある

では、現代の未来学者とは何者か?『シグナル 未来学者が教える予測の技術』の著者であるエイミー・ウェブは未来学者を以下のように定義しています。

“未来学者の仕事は、予言を語ることではない。データを集め、台頭しつつあるトレンドを見つけ、戦略を考え、未来におけるさまざまなシナリオの発生確率を計算することだ”

台頭しつつあるテクノロジーを研究し、トレンドを予測することを生業としているFuturistはどのような思考で実践しているのか質問形式で進行した勉強会の内容をお伝えしたいと思います。

CIA:近い未来と遠い未来。思考のギャップは埋めるにはどうしたらよいか?

Futurist:そこが一番難しい、5年先だと現在から考えていく方が早い。あえて20年先というのは現状の延長戦ではない発想をするんですよというマインドセットをつくっていくことが必要なのかと思う。スペキュラティブデザイン、現在の延長線上ではない未来の絵をまずはみて、こういうのを作っていく世界観をつくる。

バックキャスティングの思考法は2段階必要、"違う未来の発想をする"というのと"飛ばした後に戻ってくる"というのは分けないといけない。Phae1,2とわける。クライアントの期待値との整合性を持つのが難しい。そういったことをやらせてくれるお客さん、懐の深いお客さんとある意味で実験的にやれるというのが、やりやすい座組みかと思っている。

CIA:スペキュラティブから紐付けできる、適した人材について

Futurist:市場ではあまり定義されていない職種だと思う。アメリカでもあまりいない。どちらかというとアーティスティック、現在の延長ではない飛躍ができる人。反面、ビジネスを理解して企業に戻ってくる能力が必要になってきて、両方できるのはかなりのスーパーマン的な人になってくる、一人ではなく両者の能力を持った人を集めてくるのが現実的かと思う。どういう要素が現在と違っているのか、色々な切り口で5年後第一歩として、どこをプッシュしていけるのか、ロジカルな落とし込みが必要。成功と失敗を含めて事例をつくる必要があると思う。

CIA:日本企業に向けての社内的アプローチはあるか?

Futurist:どの企業にも該当するが、内部の中での文化情勢は必要。そうしないと理解が追いつかない。電気メーカーとプロジェクトを一緒にやっている。50年後の製品ビジョンを企業からお声がけいただいている。連絡をくれるくらい熱意のある人は企業の中にも結構いるはずで、そういった熱意のある人をみつけて、小さくでもそういった人たちとまずはじめてみるというのは重要かと思っている。1個目のプロジェクトは3ヶ月単位でMiroの中で行った。そこから火がついて、次のプロジェクトへ発展していった。その後、社員自体が主導して活動を始めた。そうなると長期的な変革につながっていくのではないかと思っている。やらされている社員ではなく、火がついている社員とどれだけできるかが重要になってくる。

未来系のケイパビリティありますというのを日立などはVision Designをつくっていて、我々はこういうのを考えています。というプレゼンよりもカードをつくったりして、自分自身のケイパビリティをアピールできるようなツールをつくって、キープレイヤーへつながっていくというのもある。

CIA:未来のデザインに臨場感を持たせるには?

Futurist:未来のデザインはスローガンみたいなものでおわるのではなくて、未来の人間がどういった生活をしているのかというのをみせないとオーディエンス側がついてこれない。抽象的な話だとどうしてもブレてしまう。もう一段解像度を上げて進むとそういった未来像っていいよねとなる。次のアクションへつながっていく。組織の中でケイパビリティがない場合もあるので、その組織の中でできることを考える。例えば、ジャーニーマップなどでもよいと思う。

CIA:未来は複数あると思っていて、パラレルで予測していくのか?ポジティブになるか、ネガティブになるのか?

Futurist:まさに無数の未来があるので、発散と収束を心がけておこなう。PMの側面も必要にはなる。どこかで区切りをつけないと終わらないので、何か軸を持って選択していく。どの未来を選択していくのか、チームの意思、統計などの事実をベースにするのか、決まった未来の設定方法があるわけではない。どの未来も主観的な選択をすることが必要になってくる。ポジティブな未来、ネガティブな未来も選択にはなっていく。セッティングとしてネガティブな未来を選択することはあるが、ある組織のビジョンを掲げるときには、ポジティブな面を見つけていくというのは非常に重要。悲観的な状況下でもポジティブなものを見つけ出していく必要がある。

CIA:議論でファンタジーにならないコツはあるのか?

Futurist:飛び出しましょうという設定がいいお客さんもいるなか、未来を考えるのもある意味、ロジカルな思考。個人のアイディアは単一の視点しかないので、他の視点を足していく、技術が活用されている環境、マクロとミクロの色々な視点でみて、一つのアイディアを補って、未来の世界観を作らないといけないと思う。未来は複数あるし、コンテクストがないと捉えられ方が変わる。どういう文脈に置くかというを発想の付け足しとして行うことで、より解像度が上がっていく。その解像度でおこなうとどちらがいいのか選択の議論ができる。学祭的ないろんな視点があり、それが拡張していって、ある世界観ができあがる。そうなると実際にいけるのかフィジビリティーが出てくる。

架空のストーリーをつくって映画をつくってしまう。ドラえもんの道具でも現実世界で存在していて、既存のコンテンツにどんどん足していって、世界観をつくっていく。一つのアイディアにどこまで、それ以外の要素を足して行って、未来の情景を複数描けるか。そのレベルで作ってそこから戻ってくるとき、一つ一つの要素を分解して行って、統計からみて、分析して現在との紐付けができる。試行錯誤をしながら、柔軟性のあるチームでないと難しい側面はある。アウトプットはみえているので、そのプロセスは色々あるというのを受け入れてもらえないといけない。

CIA:バックキャストのアプローチを広めるためのポイントは?

Futurist:コンサルはステップバイステップのプロセスを着実に進んでいく。プロジェクトで求められるもの、未来のプロダクトなのか、ヴィジョンなのか。その中でどういう層の人とどういうレベル感のものをつくると刺さりやすいのか、考えている。2050年から今のサービスを見たいというのは、はまらない。現場のデザイナーとやるのか、経営層レベルでビジョンをやって上から落としていくのがいいのか。日本だとクライアントがあまりコミットしないパターンが多い。プロセス、結果は体系化されていないので、公開して透明性をあげていく。デザイン思考もそうだが、プロセスの研究は2000年代から重要視されている。デザイン思考のおもしろいところはプロセスが公開されたこと。非デザイナーへの敷居がさがっている。それと同じことを未来系のプロジェクトでもやっていくためには、プロセス自体を開け放つことが必要かと思っている。